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1.こだわりは心の足かせとなる
高僧がいました。
ある日、いつものように有り難いお話を聞こうと伺った人がいました。あいにく外出中とのことです。少々、体調を崩されてご自分で薬を求めに出かけたとのこと。それを聞いて、悟りの極みに達しているほどの方が薬を飲まなければならないとは凡人と変わりはしないではないか、これはがっかりだと言って帰ってしまいました。
帰宅後、話を聞いた老僧は手早く短冊に筆を走らせ、使いの者に届けさせました。
「 浜までは 海女も蓑着る しぐれかな」
それがこの言葉です。
医者の不養生という言葉がありますね。
その道の専門家というものは徹底してその世界のことを極めているものと思われています。ですから、素人にも分かるようなミスでもあれば即座に批判の的となります。
名医と呼ばれる人は自分の病気などとは無縁のようにありますがそうはいかないのですね。大きな病に倒れる人もいるわけです。だから患者さんの痛みがよく分かる。
高僧と呼ばれる人でも同じことです。
悟りの境地を説きながらもやはり自らの煩悩に生涯苦しみながら日常を過ごしている。
だからこそ悩める人の苦悶がよく分かるのです。
それはみんなみんな生身の人間として生きているということ。
―ということは、悩んでこそ当たり前、病気にかかっても当たり前。
海に入ってずぶぬれになってしまう海女さんも、それまでは雨には濡れたくない心境も当たり前。それがこの世に人間として生きている真の姿なのだと分かれば人生もずっと楽になってくるのですね。
短冊の言葉はそれを伝えようとしているのです。
ひとつの形や理屈だけにとらわれていると、いつまでもたっても進展も結果も得られないとになります。
このことをなるほどと納得出来た時がまぎれもなく悟りの境地に至った状態です。
悟りは遥か遠くにあるのではなく我が心の中にあると言います。すべては心の持ち方次第で大きく変わるということです。
お釈迦様以来、2500年も前から伝え続けられている人生の智恵なのですね。